酒呑銭無し
あつみ温泉の一角に庄内藩ゆかりの刀匠藤原清人の顕彰碑がひっそりと建っている。
昭和47年、当時、日本美術刀剣保存協会の会長で近世刀剣界の権威であった酒田出身の本間薫山先生、また同協会専務で鶴岡出身の佐藤寒山先生が中心となって、日本全国の愛刀家の協賛を得て建立した顕彰碑。
碑文に曰く
「名人有似所二ツ 酒呑銭無ト」(名人に似たる所二つ有り 酒呑と銭無しと)
これは清人のある脇差の添銘を そのまま拡大碑文にしたもの。
清人が師匠の清麿に学んだのは二年半。どうしても名人(師匠)のように刀を打つことができない。その不甲斐なさを一振りの脇差の裏銘に記したのである。
清麿は晩年酒に明け暮れ注文刀の代価の半分を受け取りながら造刀を果たせず自刃してしまう。清人は他の門人が離散する中、師匠の恩義に報いるために代作を続け、遺族のためにその刀債を完済したという。
「師匠に似たのは酒呑みと銭無しで、刀は遠く及ばない。」この銘文から清人の真面目な人柄とどこかほのぼのとした温かみを感じるのである。
Bloom 2020.10 Vol.89 知新-新しきを知る- 第18回