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夏の思い出 また一つ

「皆の者、獲物を取れぇ!」(おーー!)「鬨(とき)の声をあげるぞ!」(おーー!)「えい!えい!」(おーー!)「えい!えい!」(おーー!)「えい!えい!」(おーー!)

荘内大祭宵祭りの出陣式で酒井家第3代酒井忠勝公役を務めた。黄金の甲冑に身を包み、鬨(とき)の声をあげた。翌日の荘内大祭の大名行列では藩主役で馬上へ。「お父さん、かっこいい!」子どもたちの憧れの眼差し(その日だけだったが)。

8月はあっというまに時が過ぎ、せっかく子どもたちが夏休みだったのに、ゆっくり遊びに連れて行くことができなかった。夏休み終盤、遅ればせながら、日帰りドライブで秋田に行ってきた。

早朝に出発。不慣れな秋田への旅路ということでカーナビの案内で旅はスタートした。車内は子どもたちのワクワク感にあふれていた。ハンドルを握るのは私。途中、「え?ここで曲がるの?」という局面があった。何度か直進で抵抗したが、カーナビはどうしてもそこで曲がらせようとそこまで戻らせる案内をはじめた。このままカーナビを信じていいのか?しょせん機械じゃないかと不信感が募る。妻と相談し「カーナビを信じよう、任せよう」ということに決定し、カーナビに全てを委ねた。案の定、これまで一度も通ったことがなかった道を進むことになった。山道、細い山道。「携帯の電波も通じないようだよ」と妻。とても不安である。その状況下、せめてもの救いは自然あふれる車窓からの風景。山々の深い緑に小川の流れ、セミの声。子どもたちは後ろの席でけんかをはじめた。これぞ、非日常と日常の調和。自分は運転に集中しよう。やっとのことで国道に出て、秋田に入った。ここまでで約3時間が経過していた。道の駅で玉こんにゃくを買って子どもたちに与える。「お昼前なのに!」と妻にちょっと怒られる。

今回の秋田旅路の第一の目的が稲庭うどんである。稲庭うどんの名店をカーナビの目的地に設定してここまでやってきた。うどんも美味、サービスも素晴らしく、工場見学も気楽に楽しめた。第二の目的が動物園だったが、ここからまた2時間かかるというカーナビのお告げで断念することに。皆で協議して比較的近くの秋田ふるさと村に行くことになった。ワンダーキャッスルという屋内遊戯施設で数時間遊んだ。その名の通り西洋のお城のような建物でトリックアートも楽しめる。短時間ではあったが秋田を満喫して帰路についた。大切な夏の思い出がまた一つ増えた。子どもたちの心の中に楽しかった思い出として残ればいいな。

本当に小さな日帰り旅行だったが、私たち家族には目的があった。目的地があった。改めて思うのである。人にはそれぞれ目的と目的地がある。生きていくために、より楽しく充実した人生のために、目的と目的地が必要である。仕事でもプライベートでもそう。「目的」・「目的地」になるために努力していくべきなのだ。

8月23日、致道博物館の御隠殿でタイ国際航空のエクニティ・ニティタンプラパス会長御一行をお迎えして、「酒井家謁見式」と称した歓迎行事を開催した。新聞取材でエクニティ会長は「酒井家の方にお会いでき、全員が感動している。これが来日した一つの目的。定期便で、心がつながる両国の友好をさらに深めたい」と述べられた。リップサービスも多分にあるかもしれないが、私自身が、致道博物館が、インバウンドを含めた観光、人々の目的や目的地になれればうれしいな。そのためにも自分をさらに磨き、努力していこうと心に決めた。

最後に… 私が「えい!えい!」というと1歳の次男も「おーー!」と言うようになった。わが家だけかもしれないがこの夏、「鬨(とき)の声」がはやっている。鬨の声を上げると一体感が生まれる。

 2019年(令和元年)9月8日(日曜日)山形新聞 総合2面 日曜随想11-⑧