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世が世なら… でなくても

「世が世なら… 」とよくいわれる。世が世なら… 若殿様?切腹もの?頭が高い?ひかえおろ~? 「世が世でないものですから…」とお答えすると、そこで小さな笑いが巻き起こる。最上級の褒め言葉なのかもしれないが、世が世でないことは明らかなので、むしろ皮肉なのかしらとも思うのである。

何はともあれ、旧庄内藩酒井家に生まれ育ち、今日に至る。どうやら、ヒトはその生まれや育ちに大変興味を抱くようで。「特別な教育を受けられたのでしょう?」とか。「さぞや優雅にお過ごしでしょう?」とか。「いや、いや、いや」とそれらは断固否定するも、本当に普通に質素で堅実で円満な家庭に生まれ育ったことは確かなのである。

今回、日曜随想の執筆をご依頼いただいて正直ビックリした。というのも2001年に母・酒井天美が執筆していた日曜随想を久しぶりに読み、母と「いつか日曜随想に執筆できたらいいね」とご依頼の数日前に話をしていたから。なんてタイムリー。

とにかく、お声がけをいただいてとても光栄であり、嬉しくもあり、さっそく妻に報告すると「すごいことだけど。年齢的にもまだ早いんじゃない?」とのこと。ふむ、確かに。きっと読者の方々の中にも「10年早い」もしくは「100年早い」と思われている方もいらっしゃるのではないかと少し弱気になる自分がいる。10年早いはまあ良いとしても…100年早いっていうのは言い過ぎでしょう。100年後はきっと人間誰もがそうだけど生きている保証がない期間だよ。とはいえ、「まだ早いのではないか」と自分自身もそう思わざるを得ない出来事が昨年起きていたのだ。

昨春、酒井家の約400年の歴史をまとめた「故きを温ねて」という小冊子を出版した。筆者は酒井家第19代酒井忠順、そう私。この第19代と名乗ったことが一部の世に波紋を広げたのである。「よくぞ執筆された!」「分かりやすくて素晴らしい!」というお褒めの言葉をたくさん頂戴して励みになったが、反対に「今日、酒井家の第18代当主はお父上、酒井忠久様であり、ご健在であり、第19代と名乗るとは何事か!」というご意見もあり。大半は直接ではなくて、陰口だったりするのだけれど、人づてに本人(私)にも聞こえてくる。ふむ、これが世にいう賛否両論というものか。

これまでずっと第19代って呼ばれてきているし… 新聞や雑誌やテレビでもそう紹介されてきているし… 結構、既成事実みたいなもので… 第19代(予定)っていうのも何だか変でしょう?… 当主と名乗っているわけではないのだし… ふむ、何だかすべてが言い訳に聞こえちゃうのかしら。

最終的にこの「第19代騒動(勝手に私が命名)」をフォローしてくれたのは父だった。「私が忠順を正式な後継者として認めているのだから、誰に何をいわれても気にしなくていい。正々堂々、第19代と名乗り積極的に行動しなさい」といってくれたのだ。カッコイイではないか、父さん!

父は皆さまご存知の通り、公益財団法人致道博物館の代表理事館長であり、日本美術刀剣保存協会会長、出羽三山神社崇敬会会長、荘内銀行社外取締役など役職を歴任、地域の文化の発展のために今日も現役バリバリで活躍している。

多分、父もこれまで「世が世なら…」と幾度となくいわれてきたことだろう。それでも、父の背中をみて思うのである。世が世であっても、世が世でなくても、酒井家歴代当主と同様に父も世のために、人のために、毎日忙しく活動しているのだ。

世間の評判を気にして、ただ萎縮するのではなく、先頭に立つ勇気を持って、日々精進していきたい。そして、いつか父のように世のために、人のために、お役に立てる当主になりたい。まずは日曜随想にお付き合いくださいね。

 2019年(平成31年)1月6日(日曜日)山形新聞 総合2面 日曜随想 11-①