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タイミング イズ マネー

「タイミング イズ マネーですよ、酒井さん」。10年くらい前だろうか、ある友人が私にそう言った。

時は流れて、今年6月2日の日曜日の朝。私は自身の母校でもある朝暘第三小学校のグラウンドに立っていた。運動会の開会式。子どもたちと一緒にオリンピックマーチに合わせて行進入場。国歌と国旗掲揚。不思議なものでオリンピック選手としてオリンピックに出場しているような錯覚に陥る。規模も形も異なるが、今日私は走る。オールスターリレーの町代表として。選ばれたわけではなく、立候補したのだけれど。特に足が速いわけではないのだけれど。

当日、町の人や知り合いに会うたびに「すごいですね、速いのですね」と言われた。「うん、まあね、もうやるしかないですね」とコメントだけは一流のオリンピック選手である。

さて、子どもたちの競技は続き、プログラムは順調に進行されていく。娘の80M走を応援し、見届けて。その頃から緊張感が高まってくる。オールスターリレーはお昼前に予定されていて、本番まであと少し。

そして、いよいよ集合時間が迫ってきた。最初で最後の打ち合わせ。リレーは町の父兄4人で構成されていた。1人は中学生のAくん。このリレーは父兄参加の競技である。父と兄。若者もオッケー。他のチームにもちらほらと若者の姿がある。「けがだけはしないように気をつけましょう」「気楽にいきましょう」と言いつつも皆、目が本気だ。

走る順番を決めた。Aくん、私、Bさん、Cさんという走り順。他の町のお母さんがAくんに声をかけてくる。「Aくん!走るの!すごいじゃない!」。話を聞いているとAくんはどうやらとても速いらしい。県の選抜に選ばれたこともあって結構有名?第1走者で走るの?第2走者の人の責任重大ね?…。第2走者は、そう、私。競技はリレーなのだが、直前でどんどんハードルが上がっていく。

そして、リレーといえばバトン。あ!バトンの受け渡しがあることをまったく忘れていた。Aくんに教えてもらう。手のひらの向き、腕の高さ?自分は右手にバトンを持って走るので左手で受け取ってください…ってちょっとそれは無理だよ、右手でお願いします。助走はする、しない?え、助走って何?本番直前、すでにいっぱいいっぱいだ。

オールスターリレーは各回3チームずつで3回行われる。レクリエーション種目なので出番は1レースのみ。我々は1回目の第1コース。

スタートした!。Aくんがやはり速い。断トツ、先頭でコーナーを回ってくる。第2走者の私は相当早めに飛び出して助走してしまう。「タイミング、早い、早い!」会場の誰もがそう思ったであろう。Aくんからバトンを受け取り無我夢中で走った。断トツだったのが私で差を詰められる。何とかギリギリでトップをキープしBさんにバトンを渡す。その後、接戦をBさん、Cさんの奮走で制し、われわれチームは晴れて1位となったのである。

バトンの受け取り方、渡し方。後日、改めて調べてみた。何だか人生もリレーのようなものだなとふと思った。バトンを受け取るのも渡すのも本当に難しい。タイミングって難しい。早くてもいけないし。遅くてもいけないし。何事においてもタイミングって大切なのだな。

昔、友人が言っていたことを思い出した。タイミング イズ マネー。10年前のある平日、当時バイクに乗っていた私は、一人で遠出をして人里離れたカフェでこの友人とばったり会った。このタイミングでこの場所で会えることは奇跡に近い。まさに、タイミングは金なりだ。

残念ながら、その友人との再会のタイミングは逃して久しいが、元気にしているかな?私は3児の父になりました。リレーで走りました。時を経て伝えたいことがたくさんある。

 2019年(令和元年)6月30日(日曜日)山形新聞 総合2面 日曜随想11-⑥